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思い出のコモ・サバ

  • woodcutari
  • Apr 1, 1987
  • 3 min read

Updated: 2 days ago


晴れの日の知らない町


青空ひろがる ある春の日

のぞくは小さな不動産

安い汚れたアパートを カビのはえたアパートを

僕らは 僕らのアトリエに


待っていましたお客様

あなたにちょうどいいところ

安くて カビてて 古くさく おまけに床はバネのよう

あまりの古さに見捨てられ

壁にも 床にも 落書き自由


待っていました その話し

僕らの望みに ぴったりだ


話しがあったの 棚に上げ

さっそく素敵な コモ・サバへ

軽いフランセ ごきげんよう

六畳二間の 夢の城

さっそくそこに決めました。


着いたところは稲穂荘 ちょっと湿った赤電話

一言では言えない 重病人

押し入れ 足で蹴っ飛ばし

じゅうたん隣と 敷き替えた

ペンキでドアを塗り固め

アトリエ・コモ・サバ できあがり


ほっと一息ついたとき 知らない町にはっとする

僕らは ぶらっと外に出て

町をぐるりと 一周だ

ほうきを一本買いにいこう


お店がどこだか分からずに 道行く人に尋ねたら

小さな子までが 無視をする

アンケートではございません

黄色い晴れの太陽と 対照的な 町の人

それでも僕らは夢一杯 自分の仕事場持てたこと

心の神に感謝した


明日も晴れでありますように



緑目のおじいさん


ライトグレーのじゅうたんに ペールイエローブラインド

壁を飾るはモノクロの かわいい子ブタの写真です

キャンバスぴんと張ったなら 腕がなります画狂人

いかれた筆で闘うは 貧しいまじめな画学生


わたしが調子に乗ったころ

現れたるは 老人ひとり

やさしいまなこでながめてる

天国からきたよな さとりきった銀髪で

自己紹介をいたします


ぼうっとしながら見ていたら なんと両目が緑色

不思議な妖気がゆらゆらと 緑の目から流れ出す


もしやわたしのミューズかと まぶたを強くこすったなら

そこにいたのは管理人 緑の目をしたおじいさん



ペンキぬりの一日


今日は楽しいペンキ塗り えっほほ えっほほほ

オヤジさんに頼んだペンキ 缶のなかでゆれている

はしごに登って ローラーで えっほほ えほほと ペンキ塗り

右から左に手首をかえし りずむに乗って どんどんやろう


少しペンキがたれたって へっちゃら へっちゃら

愉快な気分で腕をふり あそこもここもペンキぬり

バレンちゃんといっしょなら 心も仕事もはずんじゃう

楽しいペンキ塗り えっほほ えっほほほ

終わりまでやろう えっほほ えっほほほ

きれいにペンキがぬれたなら 三時のおやつはマドレーヌ

それまで愉快にみぎひだり ワンツー ワンツー えっほほ


からすがカアっと鳴いたって

まだまだペンキは ゆれてるぞ

背中をぴんとはったなら

楽しいペンキ塗り えっほほ えっほほほ

とっほほじゃないよ まちがえないで

全部きれいにぬれたなら 晩のメニューは栗ご飯

さあ 最後までがんばろう

楽しいペンキ塗り えっほほ えっほほほ

きれいなアトリエできるまで えっほほ えっほほほ



ウォトカ


硝子のびんからさそっているよ

わたしたちのペチカの火


いつものきびしい冬将軍が 私の手をかじかませ

まぶたを重くしていくの

コモ・サバにはストーブも あたたかいろりも ございません

デッサンしようも寒すぎて すみが紙にのらないの


硝子びんのウォトカが

ぽっうとからだを温めて こころもじんわり温める


木枯らしの夜の十枚がさね

帽子をかぶって 踊りをおどる

それでもがまんできなくて

硝子びんまで手がのびる


硝子のびんからさそっているよ

わたしたちのペチカの火




Ⓒ2025 Ari Nakamura. 

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